ポリグルタミン(PolyQ)病は種々の脊髄小脳変性症、ハンチントン病などを含む一群の難治性神経変性疾患の総称で、異常伸長PolyQ鎖を持つ原因蛋白質がミスフォールディングを生じ、その結果難溶性の凝集体を形成して神経細胞内に封入体として蓄積し、神経機能障害を来たして最終的に細胞死を引き起こすと考えられている。近年、PolyQ病では著明な細胞死が観察される前から神経症状が出現し、さらにそれが可逆的であることから、神経機能障害により発症することが示唆されているが、その分子機構は未解明である。 本研究ではPolyQ病の可逆性神経機能障害の分子機構を解明するために、PolyQ病モデルショウジョウバエの寿命短縮に関わる遺伝子の遺伝学的スクリーニングを行なった。神経系に異常伸長PolyQ蛋白質を発現するPolyQ病モデルショウジョウバエでは明らかな神経細胞死が生じる前に神経機能障害により運動障害、寿命短縮を来たすことが知られている。このショウジョウバエと様々な遺伝子欠失を持つショウジョウバエライブラリー(約220系統)との遺伝学的交配を行ない、寿命短縮に対する影響を評価した。その結果、寿命短縮を有意に改善させるショウジョウバエを11系統得た。次にこれらの11個の遺伝子欠失領域にP因子挿入などの遺伝子変異を持つショウジョウバエ系統を用いて2次スクリーニングを行ない、寿命短縮改善の責任遺伝子候補を3つ同定した。さらにこれらの責任遺伝子候補に対するdsRNAを発現するショウジョウバエを作成し、RNAi法による遺伝子ノックダウンの効果を検討した。その結果、PolyQ病モデルショウジョウバエの寿命短縮に関わる新規遺伝子Sup5を同定した。 以上の結果から、PolyQ病での可逆性神経機能障害には神経細胞死とは異なる分子機構が存在し、新規遺伝子Sup5が関与していると結論した。Sup5がPolyQ病の可逆性神経機能障害に関わる分子機構が解明されれば、PolyQ病に対する新たな治療戦略が展開できる可能性がある.
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