研究概要 |
我々は、軸索型ニューロパチーと小脳失調を示す疾患(SCAN1)の原因として、Tyrosyl-DNA phosphodiesterase 1:TDP1)を同定した。本疾患では、脊髄前角細胞、プルキンエ細胞などの大型の神経細胞の変性が推定されている。トポイソメラーゼIは、DNAの転写や複製の過程におこるひずみをDNAの一過性の切断により解決するが、その切断を修復する過程においてDNAに結合したトポイソメラーゼを、DNAから取り除く酵素がTDP1である。TDP1は、Single strand break repair(SSBR)の塩基除去修復(BER)の一員として働き、さらにトポイソメラーゼ以外のSSBRにおいても働く。SCAN1の病態を調べるため、別のDNAの修復機構であるXPF/ERCC1やMUS81/EME1による相同組み換えおよびnucleotide excision repair(NER)システムがTDP1を補完しうるか検討した。マウスにおいてTDP1の組織発現とXPF,ERCC1,Mus81のmRNAの発現は神経系を含めた各臓器において極めて分布を示した。一方、我々は、Tdp1ノックアウトマウスについて完成させ、マウスの解析に入った。PO期のWild type,ホモ-/-,ヘテロ-/+について検討したが、体重、脳の重量、組織学的に神経細胞に明らかな異常は認めていない。さらに検討中である。TDP1はBERとして働くが、それを補いうるNERシステムXPF-ERCC1の発現がTDP1と極めて類似しており、少なくとも組織発現としては補完可能である。そのような他の修復機構が補完しており、SCAN1患者の発生、発達過程には問題がないのであろう。Tdp1ノックアウトマウスモデルにおいても発生、発達過程は良好で、成長後の神経障害の進行に注目し、その病態解明を行っていく。
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