アルツハイマー病(ア病)は脳の萎縮をもたらす進行性の神経細胞の変性脱落であることから、神経細胞死を阻止できれば、他の治療法を併せてより有効なア病治療の実現が期待できる。申請者のグループはア病の神経細胞死を抑制する新規ペプチド因子ヒューマニン(Humanin : HN、配列MAPRGFSCLLLLTSEIDLPVKRRA)を発見した(PNAS2001)。HNは分泌性ペプチドで、その合成ペプチドを培養神経細胞の培地に加えるだけでアミロイドベータ(Aβ)などのア病関連侵害因子による細胞死を抑制する。また、HNは特定のアミノ酸置換によってpMレベルまで活性が上昇し(JNC2003)、そのin vitro実験での高い神経細胞死抑制効果から合成ペプチドそのものが有効な治療薬となることが期待できる。さらに、高活性型誘導体S14G-HNはAβペプチドによるマウスの記憶障害を改善する(JNR 2005)。本研究では、HNの作用機序解析の一環として、HNとその高活性型誘導体S14G-HNの分子構造をcircular dichroism (CD)法により解析した。その結果、HN、S14G-HNはPBS中では類似しているものの明確に異なる構造を取り、その構造はペプチドの濃度と温度依存的に変化すること、その構造変化はペプチド分子同士の結合が関係することを明らかにした(JPepSci 2006)。加えて、Abの細胞毒性をfemtomolerのレベルで抑制するペプチド因子ADNFとHNGとの構造を比較し、それらの活性と構造の関連性を検討した(論文投稿中)。また、HNによる細胞内シグナルについては、STAT3が活性化されること、HN受容体であるFPRL1を介してERKが活性化されることを明らかにした。さらに、国内外からのHNに関する発表と我々の研究成果を総括する総論を発表した(Frontiers in Alzheimer's disease Research 2006)。
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