高山病は高所(低圧低位酸素環境)への順応不全の結果生じる疾患である。高山病では環境因子(高所への移動)が関与することは自明であるが、高山病の病態形成には遺伝要因が関与すると考えられている。頭痛は高山病の必発の症状であるが、高山病に伴う頭痛に片頭痛治療薬であるトリプタン系薬剤が有用であることが報告されている。一方、片頭痛は女性に多いcommon diseaseであり、その成因は不明であるが、遺伝要因と環境因子が関与する多因子疾患である。本研究の目的は低圧低酸素下において出現する頭痛と片頭痛との類似性に着目して、片頭痛の成因に関与する可能性のある遺伝子群を低酸素応答遺伝子群として同定することである。低圧低酸素負荷は低圧低酸素室での低酸素トレーニングを行うことになっている登山者を対象に施行した。低圧低酸素負荷により脈波所見上C切痕の低下(末梢血管拡張を意味する)が認められた。このC切痕の低下は酸素吸入により完全に回復するので、末梢血管拡張は低酸素依存性の現象であることが示唆された。片頭痛は頭蓋内血管の拡張・収縮により惹起される血管性頭痛であり、この点でも類似性が示唆された。In vivoにおける低酸素応答遺伝子の同定は低圧低酸素室において、安静状態における低圧低酸素負荷の前後で採血を行い、末梢血リンパ球および全血細胞を用いてDNAマイクロァレイにより遺伝子解析を行った。その結果、低圧低酸素負荷により血管拡張に関与すると考えられる遺伝子・代謝関連遺伝子・細胞周期関連遺伝子など多くの遺伝子の発現が変化していたことが明らかとなった。この遺伝子群の中には多型解析により片頭痛の遺伝子座として報告されている部位に存在する遺伝子も含まれていた。今回同定した遺伝子群の一部は片頭痛の病態形成に関与しうる可能性があると期待される。
|