平成18年度は、遺伝性ニューロパチー症例に注目し、免疫性神経疾患の発病に関わる標的分子としてperipheral myelin protein-22、PO glycoprotein(PO)、P2 glycoprotein、Connexin-32などの末梢神経髄鞘蛋白に照準を当てて研究を行った。 症例を詳細に調べると、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)に類似した臨床像や病理所見を有する遺伝性ニューロパチーが2症例存在することが判明した。これらの症例はいずれもPO遺伝子に異常を認め、1例目はThr124Metで、2例目はThy68Cysのヘテロmutationであった。PO遺伝子はマウスの実験で遺伝子異常が自己免疫性神経炎の原因となることが知られており、ヘテロ欠損マウスは生後約半年でT細胞浸潤を伴った神経炎を自然発症する。またPOヘテロ欠損マウスに実験的自己免疫性神経炎を誘導すると、免疫応答が亢進し神経炎が重症化する。これらの知見から、我々の症例でもPO遺伝子異常が原因となって自己免疫応答が亢進し、CIDP様の神経炎を発症した可能性を考えた。 免疫応答の解析方法として、患者の末梢血リンパ球をPO-wild peptide、PO-mutant peptideそれぞれと共培養し、2週間後、同じ抗原にて再刺激し細胞増殖反応を評価した。その結果、健常コントロールでは、明らかな増殖反応は見られなかったが、Thr124Metを有する症例では、PO-mutant peptideに対するリンパ球の増殖反応が有意に亢進しており、患者の有するmutationが免疫応答亢進の原因と考えた。 さらなる検討が必要であるが、PO遺伝子異常がPOに対する免疫応答亢進の原因となり、CIDP様の自己免疫性神経炎の発症につながったことが示唆される。
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