平成17年度は、慢性炎症性脱髄性神経炎(CIDP)と多発性硬化症(MS)を対象疾患とし、発病に関わる標的分子としてCIDPではPMP-22、P0 glycoprotein(P0)、P2、Connexin-32など末梢神経髄鞘蛋白を、MSではmyelin basic protein(MBP)、proteolipid protein(PLP)、myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)など中枢神経髄鞘蛋白に照準を当てた。血清中の抗体価をELISAにて測定したところ、CIDPは10例全てで陰性であったが、MSは90症例中、抗MOG抗体IgG2例、抗PLP抗体IgG4例、抗MBP抗体IgG5例で陽性であった。しかし、抗体価と臨床的重症度との相関関係は見出せなかった。平成18年度は、遺伝性ニューロパチー症例に注目し、詳細に調べたところ、CIDPに類似した特徴を有する症例が2症例存在した。いずれもP0遺伝子へテロmutationを認めた。P0へテロ欠損マウスは生後約半年で自己免疫性神経炎を自然発症することから、我々の症例でもP0遺伝子異常が自己免疫応答亢進の原因となりCIDP様の神経炎を発症した可能性を考えた。患者の末梢血リンパ球をP0-mutant peptideと共培養し、2週間後、同抗原にて再刺激し細胞増殖反応を評価したところ、Thr124Metを有する症例では、P0-mutant peptideに対する増殖反応が有意に亢進していた。患者の有するmutationが免疫応答亢進の原因と考えられた。 この結果は、遺伝子異常が自己免疫病発病の原因となる可能性を示唆するものである。 「免疫性神経疾患の発病に関わる標的分子の遺伝子異常」の存在を明らかにする結果を得ることができた。
|