研究概要 |
本課題は,運動神経損傷や筋萎縮性側索硬化症(ALS)をはじめとする運動ニューロン疾患に焦点をあて,運動ニューロンの変性脱落に対する治療法の開発について基礎的な研究を行うことを目的としている.近年,脳病変に伴って脳室周囲・嗅神経系および海馬歯状回以外の部位,たとえば大脳新皮質や線条体でも神経幹細胞・神経前駆細胞が出現増殖することが知られている.我々は成体ラットに顔面神経引き抜き損傷を加えると顔面神経核の運動ニューロン死がおこり,4-6週間の経過で運動ニューロン数が20%にまで滅少することを報告してきたが,この運動ニューロン死に伴ってnestin陽性の内在性神経前駆細胞が出現増殖することを見出した。3ヶ月齢雄ラット右顔面神経を引き抜き除去2週後から運動ニューロン死が明らかとなり,nestin陽性の神経前駆細胞が出現増殖した.運動ニューロン死の明らかでない神経切断ではnestin陽性細胞の出現はみられなかった.一方,正常顔面神経核を含む腹側脳幹組織からFGF2,EGF存在下でneurosphereを増殖させ,6ヶ月以上にわたり神経前駆細胞を継代培養しうることを見出した.また,顔面神経引き抜き損傷を加えた組織からはより大量の神経前駆細胞培養が得られることがわかった.この神経前駆細胞はレチノイン酸存在下でニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトに分化した.引き抜き損傷後のFGF2組換えアデノウイルス(AxFGF2),LacZ組換えアデノウイルス(AxLacZ)またはPBSの局所接種により残存運動ニューロン数に変化はみられないが,AxFGF2接種ではnestin陽性細胞がAxbacZまたはPBS接種にくらべて1.8倍増加した.本実験モデルは成体脳における内在性神経前駆細胞増殖分化の解析や損傷脳に対する再生医療の開発に有用と考えられる.
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