研究概要 |
前年度に、低密度リポ蛋白(LDL)中のリゾフォスファチジン酸(LPA)が、平滑筋細胞のLPA1受容体を刺激して遊走、増殖など動脈硬化促進作用を引き起こし、高密度リポ蛋白(HDL)中のスフィンゴシン1-リン酸(S1P)が、平滑筋細胞のS1P2受容体を介して、血小板増殖因子(PDGF)による遊走応答を抑制し、アンチ動脈硬化作用を発揮している可能性を示唆した。本年度は、LDLとHDL中のLPA,S1P量を、我々が独自に開発した定量法を用いて定量した。その結果、HDLに比しLDL中には高濃度のLPAが存在する一方、HDL中にはLDLに比し、高濃度のS1Pが存在していた。この結果は上記可能性を支持する。さらに本年度は、LDL中のLPAをリパーゼ処理により分解、または平滑筋細胞のLPA受容体をアンタゴニストで阻害すると、LDLが平滑筋細胞の遊走を積極的に抑制し、アンチ動脈硬化作用を発揮することを新たに見出した。この抑制作用はS1P2受容体に対するsiRNAで阻害されること。実際に、LDL中にはLPAよりは少ないもののS1Pが存在することから、血管平滑筋細胞の遊走応答に対するLDL作用は、LDL中のLPA,S1P量のバランスと平滑筋細胞に発現するLPA, S1P受容体サブタイプによって決まることが明らかとなった。本年度はさらに、in vivoモデルとしてラット頸動脈肥厚モデルを用いてLPA作用を検討した。現段階ではLPA処理によりはっきりとした傾向が認められておらず、LPAの処理時間、濃度など、さらなる条件検討が必要である。
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