女性は妊娠後期や更年期以後では、インスリン抵抗性が高まり2型糖尿病が発症し易いことが知られている。そこで、女性の性ホルモンとして重要なエストロゲンがインスリン感受性を調節するメカニズムにつき、平成18年度においてもさらに検討を行った。 3T3-L1脂肪細胞において、エストロゲンは生理的濃度では、インスリン受容体基質1(IRS-1)のチロシンリン酸化を亢進させ、また、高濃度では低下させることで、ブドウ糖取り込みへのインスリン作用を濃度依存性に調節することを明らかにしてきた。今回、インスリン感受性の調節に重要なアディポカインであるアディポネクチンとレプチンの分泌にエストロゲンが及ぼす影響につき検討した。エストロゲンの処置は、生理的濃度ではアディポネクチンの分泌を亢進し、高濃度では低下させた。また、レプチンの分泌には生理的濃度のエストロゲン処置では影響を認めず、高濃度の処置では低下したことから、エストロゲンの濃度依存性のインスリン感受性調節の機序として、インスリンシグナルへの直接的な関与に加えて、アディポネクチンの分泌促進作用も有することが示された。さらに、プロゲステロンも高濃度ではインスリン抵抗性を惹起したが、生理的濃度ではインスリン作用やアディポカインへの影響は認めなかった。 次に、マウス個体での糖代謝にエストロゲンが及ぼす影響を検討した。卵巣を摘出した雌C57BL/6Jマウスの耐糖能を経口糖負荷試験とインスリン負荷試験により検討すると、耐糖能異常とインスリン抵抗性を呈した。生理的濃度のプロゲステロンの投与は、糖代謝に影響を与えなかったが、生理的濃度のエストロゲンの投与により、耐糖能とインスリン感受性はほぼ正常に改善した。ここで、さらに高濃度のエストロゲンを投与すると、耐糖能とインスリン抵抗性の改善は認められなかった。 以上より、エストロゲンはエストロゲン受容体αを介して、濃度依存的な機序で糖代謝に関与し、その機序として、インスリン作用への直接的な関与と主にアディポネクチンの発現調節を介した作用により生じることが示された。
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