研究概要 |
平成18年までの研究により2型糖尿病の肝臓ではミトコンドリア酸化的リン酸化に関与するOXPHOS遺伝子が協調的に発現亢進していることを明らかにした。そこで平成19年度は、肝臓における「酸化的リン酸化遺伝子群」の病態生理学的意義を遺伝子発現-臨床連関から明らかにするとともに,それらの協調的発現制御機構を解明し、マスター遺伝子の同定を試みた。 (1)肝臓における「酸化的リン酸化遺伝子群」の病態生理学的意義の解明 OXPHOS遺伝子の発現量のZ変換により,平均値を0,分散を1として,標準化する.OXPHOS遺伝子群各遺伝子の標準化スコア平均値をmean centroid of OXPHOS genesとして算出し,血糖コントロール,インスリン抵抗性,血管合併症など2型糖尿病の病態との関連を検索した.その結果mean centroid of OXPHOS genesは空腹時血糖値およびインスリン抵抗性指数と相関した。この結果は肝におけるOXPHOS遺伝子の協調的発現充進が肝でのインスリン抵抗性を反映する可能性を示唆する。 (2)肝臓における「酸化的リン酸化遺伝子群」の協調的発現を制御する病態・因子の解明 肝発現遺伝子相互の関連を解析したところ、mean centroid of OXPHOS genesは、糖新生関連遺伝子群、活性酸素産生系およびredox系遺伝子群と有意に正相関した。これらの径路は、糖尿病に肥満が加わることでさらに強く発現亢進した。したがって、糖尿病・肥満症患者の肝臓では、糖代謝・脂質代謝の結果生じる基質の過剰供給によりOXPHOSおよび活性酸素産生系遺伝子群が発現充進し、酸化ストレスが生じて肝臓におけるインスリン抵抗性がもたらされる可能性がある。さらに、転写因子・転写補助因子の中でも、PPARG, ESRRA, NCOA1,JHRA, NCOA2などのエネルギー代謝に関わる遺伝子と正相関したが、2型糖尿病患者の骨格筋におけるOXPHOS遺伝子発現を制御するマスター遺伝子として示唆されているPPARGC1Aとは有意に相関しなかった。これらの中に、肝と骨格筋における組織特異的OXPHOS遺伝子発現を制御する因子が存在する可能性がある。
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