研究概要 |
本研究では、心筋HSLの過剰発現や欠損が糖尿病性心筋症に与える影響を検討するため、心筋特異的にHSLを過剰発現するトランスジェニック(Tg)マウスとHSL-ノックアウト(KO)マウスを用いて解析している。 1.心筋特異的HSL過剰発現マウス:MHC-HSLの作製、解析 マウス心筋特異的プロモーターMHCα下流にrat HSL cDNAを挿入してtransgeneを作製し、心筋特異的HSL過剰発現マウスを作製した。ファウンダーをC57BL/6マウスに戻し交配し、高発現TgマウスMH-1系を確立した。ヘテロ型F2マウスでHSL活性、蛋白量とも心筋特異的に野生型マウス(Wt)の8-10倍増加を認めた。 F6、F7マウスにSTZを投与して糖尿病を誘発し、3週間後に屠殺して心筋を電子顕微鏡にて解析した。Wtではミトコンドリア周囲に著明な脂肪滴の蓄積を認めたが、Tgでは認められなかった。蓄積した脂質はトリグリセリドとジアシルグリセロールであった。HSLは細胞内の脂肪分解を促進して心筋細胞内の脂肪蓄積を抑制したと考えられる。また心筋のmRNA発現を解析した結果、NF-kB, iNOS, NOX2,TGF-Bなど心筋障害のマーカーとなる遺伝子発現はTg心筋で低下していた。以上より心筋HSLの過剰発現は、糖尿病に伴う脂肪毒性を抑制する方向に機能すると考えられた。今後、PKC活性や超音波による心機能検査、グルコースや脂肪酸の取り込み等を検討し、論文を投稿する予定である。 2.HSL-KOマウス心筋の解析 HSL-KOマウス心筋の脂質代謝について検討した結果、心筋HSLは心筋のcholesteryl esterase活性をほぼ100%担うこと、心筋にHSL以外のTG lipaseが発現、機能していること、HSL-KOマウスの心筋では絶食時にリポ蛋白リパーゼ活性が2.5倍増加し、超低比重リポ蛋白(VLDL)を過剰に取り込むこと、絶食後再摂食時に脂肪滴を蓄積することなどを確認し、現在論文の投稿準備中である。
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