脂肪細胞のモデル細胞である3T3-L1細胞において、パルミチン酸(PAL)およびC2セラマイド(CER)孵置によりインスリン抵抗性が惹起されたが、その作用点とは、Aktレベルであると考えられた。CER合成阻害剤であるミリオシン孵置はPALの効果を消失させた。さらに、CERの合成基質とならないミリスチン酸(MYR)やオレイン酸はインスリン抵抗性を惹起しなかった。以上の結果よりFFAを基質として細胞内でde novo合成されるスフィンゴ脂質の一つであるCERがインスリン抵抗性の原因であることが示唆された。さらに、PALおよびCERによりPP2A活性が刺激され、PP2A抑制剤であるオカダ酸前孵置により、PAL、CERによるAkt抑制が解除された。CERは以前よりPP2Aを活性化すること、PP2AはAktを不活性化することが知られており、以上より、Akt活性の抑制機序として、細胞内CER合成亢進を介してPP2A活性を直接刺激し、Aktを脱リン酸化することを見出した。 一方、肝臓のモデル細胞であるFao細胞においてもPALとCERはAktリン酸化を抑制したが、MYRでも抑制された。しかし、PP2A活性化は伴わず、オカダ酸、ミリオシンの抑制効果も認めなかった。 さらに、筋肉細胞のモデル細胞であるL6細胞においては、PALとCERによりAktリン酸化を抑制したが、これは、オカダ酸により部分的に解除された。PALの効果はミリオシンにより部分的に解除された。MYRの効果は認めなかった。このことより、L6細胞におけるAkt抑制作用は、一部はPP2Aの活性化を介するが、その他の機序も関与していると考えられた。以上より、FFAによるインスリン抵抗性惹起機構は、単一ではなく、各臓器において異なることが示唆された。
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