ヒトでの糖代謝の律速段は糖輸送である。筋肉や脂肪組織における糖輸送は糖輸送担体(トランスポーター:GLUT4)が担う。この膜蛋白は、インスリン刺激により細胞膜まで速やかに移動(トランスロケーション)する。しかし、このGLUT4がトランスロケーションするステップの他に細胞膜近傍に於いて糖輸送を調節する第二のインスリン作用メカニズムが存在すると仮説をたてた。細胞膜マイクロドメインに注目し検討した結果、以下の2つが新たに明らかになった。 1.カベオリンラフトに存在する二つの蛋白を同定した。一つは、GPIアンカー蛋白p69であり、もう一つは、Rmelである。前者は糖輸送担体GLUT4に直接結合する。これら蛋白を脂肪細胞に過剰発現すると、p69では糖輸送は亢進し、後者では抑制された。その詳細なメカニズムを検討する目的で、糖輸送担体の細胞内局在を詳細に検討した。その結果、p69はラフトへGLUT4を集め、RmelはGLUT4がラフトへ進入するのを抑制しているように見える。残念ながら現時点では、カベオリンラフトと糖輸送活性の詳細は不明である。本研究の結果は、膜ラフト構造と糖輸送の関係を考える上で興味深い。すなわち、膜上にラフト状の「ホットスポット」が存在し、糖輸送活性に重要であると思われる。上述GPIアンカー蛋白p69とRmelはこの「ホットスポット」への糖輸送担体の出入りを調節していると考えられる。 2.膜直下にインスリンシグナルが効率よく伝達される領域が存在する。そこは、IRS-1蛋白が存在する部位であり、上記「ホットスポット」と同一かあるいは関連して存在すると考えられる。今回我々は、IRS-1の可視化を試み、成功した。IRS-1は、インスリン刺激により細胞膜と膜直下の微細顆粒状構造体に集った。興味あることにこの微細構造体は、TNFαによるインスリン抵抗性、IRS-1のダウンレギュレーションに関係していることが判明し、論文報告した。
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