研究概要 |
【背景・目的】糖尿病に特徴的な血管細胞の変化を引き起こす因子として種々の糖化タンパク質(advanced glycation endproduct,AGE)が同定され、またAGEと結合活性を有する細胞膜貫通型の受容体であるreceptor for AGE(RAGE)が糖尿病性血管合併症の病因に関与することが明らかになってきた。最近、RAGEのspriced variantの一つでC末端側細胞膜貫通部位が欠失した分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE,esRAGE)の存在が明らかになり、生理的に生成されるAGEのデコイ受容体であることが示された。実際ヒト循環血液中でesRAGEが検出され、細胞外でAGEを捕捉し細胞をAGEによる障害から保護し得る可能性が考えられる。そこで本研究では、血中esRAGEと2型糖尿病、動脈硬化の病態との関連を検討した。 【方法】年齢、性別をマッチさせた2型糖尿病210名(男性120名、女性90名)と非糖尿病者134名(男性70名、女性64名)を対象とした。血中esRAGEはELISA法により、インスリン抵抗性はHOMA指数により、頚動脈・大腿動脈硬化は超音波法により測定した。 【成績】血中esRAGEは糖尿病群(0.175±0.092ng/ml)で非糖尿病群(0.253±0.111)に比べて有意に低値を示した。全患者において、血中esRAGEはBMI(r=-0.265)、収縮期(r=-0.191)・拡張期血圧(r=-0.167)、中性脂肪(r=-0.184)、空腹時血糖(r=-0.230)、HbA1c(r=-0.256)、HOMA指数(r=-0.313)といずれも有意な負の相関関係を示した。糖尿病群のみにおいても血中esRAGEは、BMI(r=-0.224)、拡張期血圧(r=-0.158)、中性脂肪(r=-0.140)、HOMA指数(r=-0.277)はと有意な関連を示した。血中esRAGEは頚動脈壁・大腿動脈壁肥厚度と有意な負の相関を示し、動脈プラークを有する群(0.167±0.084)で、プラーク(-)群(0.223±0.112)に比べて有意に低値であった。ロジスティック解析の結果、動脈プラークと血中esRAGE(0.1ng/ml)はオッズ比0.537(95%CI:0.366-0.787)で他の臨床因子(年齢、性別、BMI、収縮期血圧、喫煙指数、non-HDL、HDL、HbA1c)に独立した有意な関連を示した。 【結論】血中esRAGEは、2型糖尿病患者で低値を示し、肥満度、高血圧、高中性脂肪血症、インスリン抵抗性指数、動脈硬化と有意な負の関連を示した。esRAGEはメタボリックシンドロームを防御する新たな標的因子と考えられる。
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