研究課題
バセドウ病や橋本病では、ウイルス感染が契機となって発症するとの仮説があるが、実験系の確立が難しく、今日まで全く検討されていない。当研究室ではヒト甲状腺濾胞の浮遊培養系を確立し、これまでインターフェロン(IFN)や種々のサイトカインの甲状腺機能に及ぼす影響を検討している。そこで、この培養系にdouble stranded RNA(dsRNA)を添加して培養し(これはウイルス感染モデルと考えてよい)、1-5日後にtotal RNAを抽出し、ヒトの全遺伝子を解析できるmicroarrayを用いてdsRNAがどのように影響するかを検討した。これまで、(1)dsRNA添加により甲状腺機能が抑制される。(2)しかし、single stranded RNAやdouble stranded DNAは甲状腺機能を抑制しない。(3)dsRNA添加により、toll-like receptor(TLR)が活性化される。特に、ウイルスを認識するTLR3が活性化される。(4)dsRNA添加によりIFN-αやIFN-βが活性化される。(5)Real time PCRで解析すると、dsRNA添加後、IFN-βは迅速に反応し、1-2時間後にピークに達する。ことなどが判明している。現在、このdsRNAによる甲状腺機能抑制作用が細胞膜上に発現しているIFN受容体を介して生じるものか否かを抗TLR3抗体を用いて検討中である。これらのin vitroのデータは、ウイルス感染が甲状腺に起こると、甲状腺機能は抑制され、橋本病や亜急性甲状腺炎の端緒となる可能性を示唆していると推測される(J Clin Endocrinol Metabに投稿中)。なお、この一連の実験中、甲状腺濾胞に余剰があるときには、TSHや無機ヨードや、薬剤の甲状腺機能に及ぼす影響も併せて検討している。このような仕事は、海外からも高い評価を受けており、microarrayの単行本の一章の執筆を依頼された。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (1件)
DNA Microarra Analysis of Endocrine Cells in Health and Disease (edited by Handwerger S, Aronow B)(Humana Press) (in press)