研究概要 |
代謝異常におけるGH/GF-I系の病態生理的意義に関する研究に関して本年度は以下に示す所見を得た。 1.GH/IGF-I系よる11β-hydroxysteroid dehydrogenase (HSD)の制御とその生理的意義の解明 3T3-L1マウス脂肪前駆細胞にGHあるいはIGF-I,あるいはこれらの組み合わせで,種々の時間処理し,処理後の11β-HSD1をWestern immunoblotおよび酵素活性を測定した。ようやく実験系を確立できたので,今後検討を進めていく予定である。 2.成人成長ホルモン分泌不全症(GHD)における非アルコール性脂肪肝障害(NAFLD)に関する検討 成人GHDはメタボリック症候群(MS)様症状を呈することが知られている。一方,NAFLD,とりわけ非アルコール性脂肪肝炎(NASH)でもしばしばMSを合併することが知られている。そこで成人GHDにおける肝機能について検討し,MSとの関係について検討した。成人GHDでアルコール飲酒量が20g/日以下の76例(男/女:42/34)を対象とし,肝障害とBM,耐糖能異常,脂質代謝異常との関係について検討した。耐糖能異常,高コレステロール血症,高中性脂肪(TG)血症を夫々20%,55%,66%に,肝酵素異常を40%に認めた。肝機能障害(肝酵素異常)例では肝機能正常例に比べ血中TG値は高く,男性ではBMIおよび血糖値は高値であった。肝機能正常15例,異常24例に腹部エコーを施行し,各々6例,18例に脂肪肝を認めた。肝機能異常例の5例に肝生検を行ったところ全例がNASHであった。成人GHDでは耐糖能異常,脂質代謝異常とともに肝障害を高頻度に合併し,この原因はNAFLDと考えられた。生検をし得た症例では全例が予後不良のNASHであり,成人GHDでのNAFLD発症リスクが高いことが示唆され,本症の生命予後に影響を及ぼす病態として注意が必要である。 3.先端巨大症における頚動脈中膜内膜複合体厚(IMT)とインスリン抵抗性に関する検討 先端巨大症では心血管病変の有病率が高く,動脈硬化の危険因子が多いことが知られている。そこで活動性先端巨大症52名(男/女:22/30,年齢23〜86歳)を対象とし頚動脈エコーを用いてIMTを測定し,血中GH/IGF-Iおよび本症に合併する動脈硬化危険因子との関連について検討した。動脈硬化の発症率は男女間で有意差を認めず,動脈硬化の有無で血中GH, IGF-I (SD含む)値に有意差を認めなかった。動脈硬化に影響するのは今回の研究では年齢,喫煙のみであった。血中GH/IGF-Iや耐糖能障害が頚動脈のIMT肥厚に直接関与している可能性は明らかでないことが示唆された。また先端巨大症ではインスリン抵抗性が高い例が多数認められるが,IMT肥厚とHOMA-IRとの明らかな関係は認められなかった。
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