研究概要 |
[目的]新規分子標的薬BMS-354825とAMN107は、慢性骨髄性白血病(CML)の標準的治療薬イマチニブに抵抗性となった白血病細胞に対し著明な効果を示す事が報告されている。しかしその作用機序については不明な点も多く残されている。また白血病幹細胞を根絶する治療法も現在のところ報告されていない。我々はBMS-354825とAMN107を用い、CML細胞の細胞周期に与える効果を検討し、その結果から白血病幹細胞を同定、分離することを試みた。 [方法]細胞株はCML細胞株K562細胞、対照としてBcr-Abl蛋白の発現のない白血病細胞株U937細胞を用い、Bcr-Abl阻害剤であるAMN107とBMS-354825を用い種々の濃度でK562とU937細胞を処理した。評価はMTT法による細胞増殖、フローサイトメトリーによる細胞周期とアポトーシスの解析、ウエスタンブロット法による細胞周期関連蛋白(p27,Skp2,Pirh2)の発現により検討した。 [結果]K562細胞においてはBMS-354825とAMN107により細胞増殖抑制効果を認め、それぞれの処理濃度の10nMと10μMで処理16時間後から細胞周期のG0/G1停止が認められ、処理24時間後からアポトーシスの誘導も認められた。一方U937細胞では上記の効果は認められなかった。また10nM BMS-354825と10μM AMN107で処理したK562細胞では、CDK阻害剤であるp27蛋白質の細胞質及び核内での発現の増加が認められ、一方ユビキチンライゲ?スのSkp2とPirh2の蛋白質発現は減少が認められた。 [考察]BMS-354825とAMN107はK562細胞においてBcr-AblからのシグナルをブロックすることによりSkp2とPirh2の発現を抑制し、その結果p27蛋白質の核内及び細胞質内での蓄積が生じ、細胞周期においてG0/G1停止が誘導される事が示された。以上の結果からは細胞周期が促進しているCML細胞においては、BMS-354825とAMN107はBcr-Ablを標的とした治療薬として非常に有効である事が示された。しかし細胞周期がそれ程亢進していない白血病幹細胞に対してはBMS-354825とAMN107の有効性は低いと推定される。従って、BMS-354825とAMN107の処理後も残存する細胞を同定することで白血病幹細胞分離することが可能であり、白血病幹細胞に対しての治療法の開発に役立つと考えられた。
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