急性前骨髄球性白血病(APL)に発現するPML-RARαは、レチノイン酸受容体(RARα)の標的遺伝子の発現を異常に抑制し、APL細胞における正常分化を阻害する。PML-RARαは、N-CoR (Nuclear Receptor Co-Repressor)転写抑制因子複合体と結合し、その複合体に含まれる種々の酵素の活性により標的遺伝子の発現を抑制すると考えられている。本研究においては、PML-RARαに結合して標的遺伝子の発現を抑制するN-CoR蛋白複合体に着目し、転写抑制に特に重要な構成因子を同定することを目的とし、転写抑制因子を分子標的とした白血病治療の可能性につき検討した。17年度においては、PML-RARαの標的遺伝子発現抑制機能に、ヒストン脱アセチル化酵素3(HDAC3)が重要であることを見いだした。18年度においては、HDAC3に対するsiRNAを用いた機能阻害の他、HDAC3に対するドミナントンネガテイブ(DN)蛋白を用いた機能阻害を試み、新しい分子標的治療の可能性を検討した。DN蛋白は、PTD (Protein Transduction Domain)タグとN-CoRに存在するHDAC3結合部位のアミノ酸配列を含み、内因性のN-CoRとHDAC3との結合を阻害するよう設計された。293T細胞にDN蛋白を強制発現させると、DN蛋白は内因性HDAC3と結合し、またN-CoRとHDAC3との結合を阻害することが確認された。PML-RARαとDN蛋白を共発現させ、PML-RARαによる免疫沈降を施行すると、PML-RARαと内因性N-CoRとの結合は保たれるがHDAC3のリクルートは阻害されることが確認された。この結果から、DN蛋白が新しい分子標的治療の方法として有用である可能性が示唆された。
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