急性前骨髄球性白血病(APL)に発現するPML-RARαはレチノイン酸受容体(RARα)の標的遺伝子の発現を異常に抑制し、APL細胞における正常分化を阻害する。PML-RARαは、N-CoR (Nuclear Receptor Co-Repressor)転写抑制因子複合体と結合し、その複合体に含まれる種々の酵素の活性により標的遺伝子の発現を抑制すると考えられている。本研究においては、PML-RARαに結合して標的遺伝子の発現を抑制するN-CoR蛋白複合体に着目し、転写抑制に特に重要な構成因子を同定することを目的とし、転写抑制因子を分子標的とした白血病治療の可能性につき検討した。Flagタグを付加したPML-RARαを293T細胞に強制発現させ、Flagビーズによるアフィニティー精製を施行したところ、これまで報告のあるN-CoR/TBLR1のほかヒストン脱アセチル化酵素3(Histone De-acetylase 3 ; HDAC3)との結合が確認された。この結合はレチノイン酸投与により解離した。RARαの標的遺伝子であるRARβ、CYP26遺伝子発現調節に対するHDAC3の機能をクロマチン免疫沈降法、RT-PCR法、ルシフェラーゼアッセイにて検討したところ、HDAC3はRARβ、CYP26遺伝子発現抑制に重要であることが示唆された。またsiRNAを用いたHDAC3ノックダウンにより、標的遺伝子発現の誘導が確認され、HDAC3が治療標的分子となりうることが示唆された。さらに、HDAC3とN-CoRの結合を阻害するドミナントネガティブ(DN)蛋白を設計し、PML-RARαを発現する293T細胞に導入したところPML-RARαとN-CoRの結合に変化はなかったが、HDAC3のリクルートが阻害されることが確認された。この結果からDN蛋白を用いた新しいHDAC3分子標的治療の可能性が示唆された。
|