大腸癌細胞株CT26を接種したBALB/cマウスの脾臓において、CD11b+Gr-1+の骨髄系免疫抑制細胞(myeloid suppressor cells ; MSC)が増加する。非担癌同系マウスの脾細胞に抗CD3抗体を加えてT細胞の増殖を誘導する系にMSCを加えるとT細胞の増殖が抑制され、この培養系にI型インターフェロン(IFN-α/β)を加えると、T細胞の増殖が回復した。この効果はI型IFNの濃度に依存的であった。I型IFNがMSCの免疫抑制作用を直接抑えているかどうかを検討するために、MSCをIFN-βで前処理し洗浄した後に培養系に添加したところ、この場合もMSCのT細胞増殖抑制効果が抑えられた。したがって、I型IFNはMSCに直接働いて、その免疫抑制効果を抑えると考えられた。 上記の系で見られた現象の一般性を検討するために、肺癌細胞株3 LLを接種したC57BL/6マウスを用いて同様の検討を行った。その結果、担癌マウスの脾臓においてMSCは増加していたが、IFN-βによってMSCの免疫抑制作用は抑えられなかった。 その後、実験を進めるうちに、CT26を接種したBALB/cマウスの脾臓においてMSCが増加しなくなったため、CT26を初期のロットに変更したところ、MiSCの増加が見られた。ところが、今度はIFN-βによるMSCのT細胞増殖抑制効果の解除が見られなくなり、添加するMSCの比率を変えて検討したが、同様の結果であった。また、MSCの免疫抑制能を司るnitricoxideの産生がIFN-βによって抑制される現象が、全脾細胞を用いた場合には再現性を持って見られたが、そこからCD11b+細胞を単離するとnitricoxide産生に対するIFN-βの有意な抑制効果が見られなかった。 以上より、I型インターフェロンがMSCの免疫抑制活性を抑えるという当初の実験で得られた現象は、生物学的に意味のある再現性を持った現象とは言えないと結論づけざるを得なかった。 また、ヒトのMSCを解析も試みたが、患者検体から十分数のMSCを単離するのが困難であることがわかったため、解析を断念した。
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