骨髄異形成症候群(MDS)の分子発症メカニズムはこれまで解明されていなかった。我々はこれまでにMDSに高率にAML1の点突然変異を見出し、AML1の点突然変異がMDS発症のマスターイベントであることを明らかにした。さらに、セカンドヒットとなる協調遺伝子群すなわちc-kit〜RASシグナル伝達経路の付加異常を同定した。本研究はAML1遺伝子異常とこれら協調遺伝子の異常によるMDS発症分子機構の解明を目的とし、MDSに対する特異的分子標的療法の開発を目指すものである。 今年度の研究では、「AML1点変異を有するMDS/AML」に特異的な遺伝子異常を解析することにより、多段階発症機構を明らかにしようと試みた。血液疾患例から(1)AML1変異MDS/AML(34例)(2)AML1正常MDS/AML(80例)、(3)CBF白血病(25例)の3群を選び、N-RAS、K-RAS、c-KIT、PTPN11、NF1、FLT3、p53遺伝子変異を解析した。その結果、AML1変異群では5番染色体正常の-717q-異常例が高頻度であり、複雑核型、-5/5q-異常はAML1正常群に特異的であった。遺伝子変異解析では、N-RAS、PTPN11、NF1、FLT3遺伝子変異、すなわちチロシンキナーゼ受容体(RTK)-RASシグナル伝達経路に属する変異の総和が、AML1変異群でAML1正常群に比し明らかに高頻度であった(38%対6.3%)。一方、p53の変異はAML1正常群にのみ見られた。c-KITの変異はCBF白血病群のみで、この群のRTK-RAS経路異常は36%と高率であった。さらに、PTPN11遺伝子変異を導入した細胞では、c-KITを介したStem cell factor(SCF)刺激により、RTK-RAS経路の過剰活性化が起こることを示した。 以上より、AML1点変異を有するMDS/AML症例は、RTK-RASシグナル伝達経路に属する遺伝子変異を高頻度に合併しており、SCF刺激により細胞表面のc-KITレセプターから過剰な増殖シグナルが細胞内に伝達されることが示唆された。「AML1点変異を有するMDS/AML」は特異的な協調遺伝子異常を示しており、他のMDS/AMLとは異なった分子病態を呈する一疾患単位であると考え、この結果を報告した。
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