骨髄異形成症候群(MDS)の分子発症メカニズムに関して、我々はAML1の点突然変異がMDS発症のマスターイベントであることを明らかにし、セカンドヒットとなる協調遺伝子群すなわちc-kit〜RASシグナル伝達経路の付加異常を同定した。本研究はAML1遺伝子異常とこれら協調遺伝子の異常によるMDS発症分子機構の解明を目的とし、MDSに対する特異的分子標的療法の開発を目指すものである。 今年度の研究では、AML1点突然変異体を造血幹細胞に導入して解析を行った。まず、マウスの造血幹細胞にレトロウイルスベクターを用いてAML1点変異体を導入したところ、MDS様の形態変化が観察された。これをマウス個体に移植すると、数ヵ月後に白血病を発症して死に至った。当初AML1点変異単独では白血病に至らないと推測していたため、意外な結果であったが、レトロウイルスベクターの導入された部位により他の遺伝子発現を変化させていることが示唆され、これらと協調して白血病を発症すると考えられた。このMDSモデルマウスの解析結果は学会等で発表し、現在論文投稿中である。次に、ヒト造血幹細胞への導入を行った。AML1遺伝子変異単独で導入した場合、長期液体培養やメチルセルロースによる継代培養において異常増殖・形態異常を認めた。セカンドヒットとなる遺伝子変異と共に導入すると、異常増殖・形態異常を生じる期間が短縮されることを確認した。これらの解析は、新たなプロジェクトとしてさらに進めていく予定である。さらに、AML1点変異を持たないMDS/AMLにおけるマスターイベントとして、CEBPA遺伝子異常を発見し、発表した。
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