骨髄異形成症候群(MDS)の分子発症機序ではAML1点変異がマスターイベントの一つであることを既に示した。本研究ではAMZ1遺伝子異常と協調遺伝子異常によるMDS発症分子機構の解明を目指した。 17年度の研究では、「AML1点変異を有するMDS/AML」に特異的な遺伝子異常を解析して多段階発症機構を明らかにした。(1)AMU変異MDS/AML、(2)AML1正常MDS/AML、(3)CBF白血病の3群を解析した結果、AML1変異群では5番染色体正常の-7/7q-異常が高頻度で、複雑核型、-5/5q-異常はAML1正常群に特異的であった。遺伝子変異解析では、RTK-RAS経路に属するN-RAS、PTPN11、NF1、FLT3遺伝子変異の総和がAML1変異群で高頻度であった。一方p53の変異はAML1正常群にのみ見られた。c-KITの変異はCBF白血病群のみで、RTK-RAS経路異常も高率であった。さらに、PTPN11遺伝子変異を導入した細胞では、c-KITを介したSCF刺激によりRTK-RAS経路の過剰活性化が起こることを示した。以上より、AML1点変異MDS/AMLはRTK-RAS経路の遺伝子変異を高頻度に合併し、SCF刺激によりc-KIT受容体から過剰な増殖刺激が細胞内に伝達されることが示唆され、この結果を報告した。 18年度の研究では、AML1点変異体を造血幹細胞に導入して解析を行った。マウス造血幹細胞への導入ではMDS様の形態変化が観察され、これをマウス個体に移植すると数ヵ月後に白血病を発症して死に至った。これはレトロウイルスベクター導入部位により他の遺伝子発現が変化し、協調して白血病を発症したと考えられた。このMDSモデルマウス解析結果は現在投稿中である。ヒト造血幹細胞への導入では、AML1変異単独導入により長期液体培養や継代培養で異常増殖・形態異常を認めた。協調遺伝子変異と共に導入すると、異常増殖・形態異常を生じる期間が短縮されることを確認した。これらの解析は今後も進めていく予定である。さらに、AML1点変異を持たないMDS/AMLにおけるマスターイベントとして、CEBPA遺伝子異常を報告した。
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