骨髄腫細胞株においてはその過半数の細胞株にPU.1の発現低下を認め、骨髄腫患者の骨髄ないしは胸水からCD138磁気ビーズを用いて純化したprimaryの骨髄腫においても同様に多くの例でPU.1の発現低下を認めた。PU.1の発現低下を認める症例は発現低下のない症例に比べて有意差をもって予後不良であった。このことよりPU.1の発現低下は多発性骨髄腫の予後不良因子であることが示された。PU.1遺伝子の発現にはそのプロモーターと同時に17kb 5'上流の哺乳類にて良く保存された領域が重要であることを我々は報告している。そこで我々はこれらの領域の骨髄腫細胞株でのメチル化の有無を調べたところ、PU.1の発現低下のメカニズムとして17kb 5'上流の保存領域とプロモーター領域の両方がメチル化を受けていることによることがわかった。PU.1発現低下が多発性骨髄腫の癌化ないしは増殖維持に関わっているかを知るため、骨髄腫細胞株U266とKMS12PEにテトラサイクリン-オフの系を用いてPU.1を発現させると細胞増殖停止とアポトーシスを引きおこすことがわかった。この細胞増殖停止はテトラサイクリンの再添加によってPU.1の発現を止めると解除されることから可逆的な現象であることがわかった。我々はさらにPU.1発現による細胞増殖停止とアポトーシスのメカニズムを調べるためにPU.1の発現誘導の前と後での遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイを用いて調べて現在解析中である。我々はPU.1発現直後にTRAILが強発現してくることを見出し、TRAILの発現をあらかじめsiRNAで抑えておくとこのアポトーシスが抑えられることから、PU.1の発現後のアポトーシスは少なくとも一部はTRAILを介していることを示した。我々は細胞増殖停止のメカニズムと他のアポトーシスのメカニズムの関与についてさらに解析を進めている。
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