研究概要 |
第VIII因子補充療法が施行されている血友病A症例の約30%に抗第VIII因子抗体が発症する。胸腺組織は、自己応答性T細胞の除去とともに自己反応性制御性T細胞を誘導することにより、免疫応答に重要な働きを有する。本研究では、血友病Aマウスに対して第VIII因子を直接的に胸腺内に投与することにより誘導される抗原特異的免疫寛容の可能性について検討した。高解像度超音波システム(Vevo 770, Visual Sonic Inc.)ガイド下に、血友病Aマウス胸腺組織にヒト遺伝子組み換え第VIII因子を直接的に投与した。胸腺内投与後に第VIII因子の反復刺激を行い、マウス個体に生じる抗第VIII因子抗体の多寡をベセスダ法により測定した。CD4+T細胞、抗原提示細胞およびCD4+CD25+T細胞を単離し、in vitroでの第VIII因子刺激に対するサイトカン産生をELISA法により、CD4+T細胞増殖活性を3H-thymidineの取り込み率により評価した。胸腺内第VIII投与群(n=17)の抗第VIII因子抗体価は、胸腺内非投与群(n=18)と比較して有意に低値であった(14.6±3.8 vs 184.5±48.6BU/mL, P=0.0019)。胸腺内第VIII投与マウス由来CD4+T細胞は、胸腺内非投与マウス由来の抗原提示細胞共存下で第VIII因子刺激に対して増殖活性を示さず、IL-2、IL-12およびIFN-γも産生しなかった。胸腺内第VIII投与マウス由来CD4+CD25+T細胞は、in vitroでの第VIII因子刺激に対する胸腺内非投与マウス由来CD4+T細胞の増殖を抑制した。この抑制効果はナイーブマウス由来CD4+CD25+T細胞ではみられなかった。これらの結果から、胸腺組織への第VIII因子抗原暴露により、抗原特異的制御性T細胞が誘導され、免疫寛容が成立する可能性が示唆された。
|