我々の研究ループは、サイトカイン投与によって動員した骨髄由来細胞による心筋組織再生の可能性についてマウスMIモデルを用いて検討を行った。まず、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を心筋梗塞(MI)後に投与することにより、残存心機能と生命予後が改善するとともに間葉系幹細胞(MSCs)が骨髄から動員されて心筋へ分化することをMSCsの細胞株を用いた実験によって突き止めた(Blood 2004)。これを基盤として、平成17年度においては細胞株ではなくnaiveなMSCsも、このような再生効果が認められるか検討を行った。しかしながら、梗塞巣において認められる骨髄由来の心筋細胞数のみによって残存心機能と生命予後の改善を説明することは困難であり、なんらかの機序がさらに加わっていると考えられた。そこで、骨髄造血幹細胞(HSCs)の関与について検討した結果、MI後にG-CSFを投与することによって、MSCsとともにHSCs由来細胞が梗塞領域に到達してcardiac myofibroblastsならびにfibroblastsに分化し、これがMI後のて残存心機能と生命予後の改善に関与している可能性が示唆された。この結果をもとに平成18年度においては、HSCs由来のcardiac myofibroblasts/fibroblastsによる心機能ならびに予後改善効果を定量的に詳細に評価するとともに、骨髄からG-CSFによって動員されて梗塞部位へ到達してcardiac myofibroblasts/fibroblastsとなりうるHSCs由来細胞の同定を試みた。その結果、MI後にG-CSF投与によって梗塞部位のcardiac myofibroblasts/fibroblastsの数が多くなるほど有意に生存率が高く、慢性期における残存心機能も有意に高く保持されていることが明らかとなった。急性期での検討を追加した結果、急性期にはHSCs由来細胞は主にcardiac myofibroblastsとして存在して心保護効果を示して心筋破裂やリモデリングを抑制し、これらの細胞は慢性期になるにしたがいfibroblastsへと分化することが観察された。さらに、G-CSF投与下で末梢血中のHSCs由来細胞を採取・分画化し、これをMI後に投与する実験から、骨髄から動員されて梗塞部位へ到達してcardiac myofibroblasts/fibroblastsへと分化するHSCs由来細胞はCD14陽性の単球/マクロファージであることが明らかとなった。現在、これらの研究成果は国際誌に投稿準備中である。
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