原因不明の溶血性貧血に対する疾患感受性遺伝子としてα一ヘモグロビン安定化蛋白(AHSP)に注目し、薬剤または感染により誘発された急性溶血性貧血例28例と正常対照97例についてケース・コントロール解析を行った。その結果、AHSP遺伝子の特定のハプロタイプが急性溶血性貧血症例群に有意に高頻度で観察されることを見いだした。 このハプロタイプを構成する遺伝子多型のうち、ケースおよびコントロール群で異なるのはSNPs4ヶ所とT反復数多型の5種で、そのすべてがAHSP遺伝子の上流域に存在することから、ハプロタイプ間で転写活性が異なることを作業仮説として、赤芽球系細胞株K562を用いてレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ)アッセイを実施した。その結果、患者群で有意に高頻度観察されるハプロタイプは、コントロールに比して約28%に転写活性が低下することが明らかとなった。 次に、in vitro mutagenesisの手法を用いて、患者群でユニークなハプロタイプを構成する多型5ヶ所を導入し、コントロールハプロタイプと転写活性を比較検討したところ、SNP(-201A→G)の導入で約34%、T15の導入で約66%へと転写活性が低下した。一方、残りのSNPs3ヶ所の導入はいずれも転写活性を変化させなかったことから、赤芽球系細胞株におけるAHSP遺伝子の転写にはSNP(-201A/G)が重要であると結論した。この一201Aを含む配列は転写因子CDX1のコンセンサス配列に含まれており、AHSP遺伝子の転写活性化こCDX1が関与するかどうか、今後の検討が必要と考えられた。 本研究により、AHSPが新規の溶血性貧血疾患感受性遺伝子であることを同定し、AHSP遺伝子プロモーター領域のSNP(-201A→G)によりAHSP発現低下が生じることが病因と結論出来た。
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