研究概要 |
今回の研究の目的は、鉄のホメオスタシス関連の分子(hepcidin, TfR2,hemojuvelin, HFEなど)がどのような機序で生体内の鉄の恒常性を維持しているかを解明し、これらの炎症性疾患や腫瘍性疾患における臨床的な意義を解析であった。我々は今回の研究期間で金沢医科大学の友杉教授との共同研究により、SELDI-TOFマス・スペクトロメトリー法により血清・尿中のhepcidinを半定量的に測定する方法を開発した(BLOOD 2006)。Hepcidinは炎症、特にインターロイキン6(IL-6)に反応して増加する肝由来のペプチド・ホルモンであり、鉄代謝と炎症を結ぶ分子として注目されていた。我々はこの測定系を用いて、代表的な貧血を伴う慢性炎症性疾患であるCastleman病患者の抗IL-6受容体抗体治療前後での血清・尿中のhepcidinをモニターし、慢性疾患の貧血の病態におけるにおけるhepidinの過剰発現の重要性を報告した(日本血液学会・臨床血液学会合同総会(2006博多)口演、BIOIRON2007(2007京都)口演、Haematologica誌にin press)。血清hepcidinのモニタリングの臨床的意義についてはさまざまな病態において現在解析を進めている。TfR2は我々がクローニングした分子であり、造血器腫瘍で高発現のみられる例がある。TfR2は鉄のセンサーとして働きHepcidinの発現を制御すると考えられており、TfR2の鉄の検知からhepcidin発現にいたる経路の解明は生体の鉄代謝制御においてきわめて重要である。我々はTfR2のテトラサイクリン誘導型過剰発現細胞株をもちいて鉄代謝・腫瘍増殖の両面からその機能についての解析を行っている。現時点ではまだ解明には至っていないが、今後も研究を継続する予定である。
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