細胞膜上のミクロドメインであるラフトには、スフィンゴ糖脂質、コレステロール、種々のシグナル分子等が集積している。ヒト血小板におけるラフトの機能を知るために、特にコレステロールに強く結合するclotridium perfringens由来ビオチン化θ毒素(BCθ)をラフトの指標にして、血小板粘着時におけるラフトと膜糖蛋白質、シグナル分子との関連を免疫電顕的に検討した。BCθはショ糖濃度密度勾配超遠心法で得た血小板ラフト分画のほとんどに結合し、さらに本分画にはGPIb、GPVIに加えて、フィブリノゲンの受容体であるGPIIb/IIIaも存在することを見出した。wholeの血小板を使った検討では、無刺激の円盤状血小板において、BCθ結合部位は血小板表面でほぼ均等に分布した。この血小板をcollagen-related peptide(CRP)に粘着させ、血小板が変形して偽足が伸張した時、BCθ結合部位は辺縁部、特に偽足の先端部に集積して分布した。すなわち、粘着血小板の伸展方向にラフトが再分布することが考えられた。この時、GPVIとGPIIb/IIIaは偽足の先端部のBCθ結合集積部位に高率に分布した。しかし、GPIbは無刺激血小板と同様にほぼ均等に分布した。粘着がさらに進行すると、血小板は扁平に伸展する。この時、BCθ結合部位は主に辺縁部に分布した。伸展血小板において、SrcファミリーチロシンキナーゼのLynは辺縁部から中央部にかけてクラスター状に検出され、その一部はBCθで検出されるラフトに一致した。また、ホスホリパーゼCγ2も同じ分布の傾向を示し、ラフトにおける一部シグナル分子の共存が示唆された。
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