(1)t(12;21)染色体転座により形成されるTEL-AML1融合遺伝子は小児白血病で最も多く見られる異常でプロB細胞性白血病を引き起こすことが知られているが、その機構については明らかではなかった。研究代表者は、TEL-AML1をマウスの造血細胞に発現させることにより、モデルマウスを作成することに成功し、このマウスの解析を通じて、TEL-AML1はB細胞の分化をプロB細胞段階で止める働きがあることを見出した。しかしこれだけでは白血病に至らず、何らかの2次的遺伝子異常が重要であると考えられた。そこで臨床検体を用い、遺伝子の量的異常に注目してアレイCGH解析を行った。その結果、全例でTEL-AWL1融合遺伝子以外に少なくとも2つの異常が見出された。とくに多い異常は正常アレルのTELの欠失と細胞増殖抑制遺伝子であるBTG1やp16Ink4a/p14Arfの欠失であった。実際、これらの欠失遺伝子をTEL-AML1白血病細胞株Rehに発現しもどすことにより、細胞の増殖が著しく抑制された。このことはTEL、BTG1、p16Ink4a/p14Arfなどの遺伝子欠失が白血病発症に重要であることを示唆する。 (2)白血病化において転写因子の特定のアイソフォーム重要であるとする知見が蓄積している。正常AML1転写因子には長短2種類のアイソフォームが存在するが、その機能的差異、白血病化への関与についてはこれまであまり調べられていなかった。ヒト臍帯血で解析すると短いアイソフォームはCD34陽性の未分化分画にのみ見られることがわかった。そこで、レトロウイルス法・レンチウイルス法でこの短いアイソフォームをマウスあるいはヒトの造血細胞に発現させて解析した。その結果、未分化造血細胞の増殖・拡大を認めた。 このことは、この短いアイソフォーム、あるいは類似したAML1変異体が前白血病状態を引き起こしうることを示す。こうして拡大した未分化細胞にさらなる遺伝子異常が起こって腫瘍化するものと考えられる。
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