生体内外の環境の酸素濃度には大きなグラジエントが存在する。リンパ球などの免疫細胞は、生体内を広く移動し、極端な酸素環境の変動に曝される。かかる細胞にとって、環境酸素濃度の変化に適応することは、細胞機能を維持するうえで重要である。低酸素により活性化される転写因子Hypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α)は、細胞の低酸素適応に重要な多くの遺伝子の発現を転写レベルで制御する。申請者らは、低酸素下のT細胞においてHIF-1αがT細胞受容体などを介した細胞活性化刺激依存性に発現し、炎症巣局所でのT細胞の寿命の制御に関わっていることを明らかにした。すなわち、HIF-1αによる細胞内シグナルが、活性型リンパ球の細胞機能、局所の免疫応答の制御に重要な役割を果している可能性を示した。本研究は、リンパ球におけるHIF-1α発現制御の分子機構を明確にすると共に、リンパ球機能制御、免疫応答制御におけるHIF-1αおよび低酸素シグナルの役割を明らかにし、低酸素シグナル伝達システムを標的とする新たな免疫制御法開発をめざすものである。 17年度研究計画に沿って以下の様に研究が展開された。 リンパ球におけるHIF-1α発現の解析。 HIF-1α蛋白の安定化の制御機構を解析する為の蛍光蛋白標識システムを開発した。かかるシステムを用いて免疫細胞の各種刺激によるHIF-1α蛋白安定化の時間経過を解析する方法を樹立した。 リンパ球におけるHIF-1α発現の意義の究明。 HIF-1α機能を抑制する分子の発現制御系を用いて低酸素応答性遺伝子発現を制御する方法を樹立した。T細胞寿命の制御にかかわるアドレノメジュリン遺伝子が制御を受け易い遺伝子であることが判明した。 リンパ球におけるHIF-1αシステムの人為的調節と疾患治療の試み。 HIF-1α発現を高効率で抑制するSiRNA導入システムを樹立した。
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