多剤併用療法によっても未だ完全なヒト免疫不全症ウイルス(HIV)の駆逐は不可能であり、既存薬の改良だけでなく、新しい分子標的に対する薬剤の開発が必要不可欠である。本研究ではウイルスアクセサリー蛋白のひとつであるRevを治療標的とする基盤研究を行っている。 本年度はレトロウイルスベクターによってRevペプチドを細胞内で発現させるとHIV複製を抑制できることから、種々の部位を含むRevペプチドをMT-2細胞で発現させ、その抗HIV効果を調べた。アルギニンリッチなヘリックス構造をとる部位が最も強い効果を示し、以前報告されたRev阻害蛋白であるRevM10と同レベルのHIV複製阻害能をもつことを明らかとした。また、同じレトロウイルス属のHTLV-IのRex蛋白のアルギニンリッチ部位でも同じような阻害効果を確認した。これらのペプチドを化学合成し、感染細胞に加えたところ、HIVコレセプターであるCXCR4とHIV gp120の結合も阻害することを明らかとした。今年度行った方法では十分に細胞内にペプチドが導入されておらず、現在新たな方法で導入を試みている。このペプチドの作用機序を解明するためにRevとその標的RNA配列RREの結合をLuciferase活性によって測定しうる系を確立している。 これらのことを踏まえて来年度は上記のRevペプチドにおける活性部位の同定と作用機序の解明を行う。さらにペプチドの縮小化、改変を行い、現在臨床治療上、最大の問題となっている薬剤耐性ウイルスの克服戦略を構築する。また、これらの研究成果からRNAウイルスにおけるゲノムの核外移行に関してだけでなく、宿主細胞におけるRNAの核外移行に関しても新しい知見を得ることを目標とする。
|