SLE(全身性エリテマトーデス)の代表的なモデルマウスであるMRL/1prマウスにおいて、実験的自己免疫性脳髄膜炎(EAE)で実証されるようなT細胞ワクチネーション(TCV)が成立するかどうかを調ベた。まず抗DNA抗体が陽性のMRL/1prマウス脾細胞より、ワクチン細胞として利用できるヌクレオソーム反応性T細胞(dna51)を分離した。その後コントロールとなる抗U1RNP抗体の産生を刺激するT細胞を分離し、それらをIL-2で刺激しておいた後に放射線照射して非活性化し、MRL/1prマウスに移入した。その結果、非活性化dna51(i-dna51)を移入した場合には血清中の抗DNA抗体価の上昇が有意に抑制され、また免疫複合体性腎炎が軽症化した。生命予後は必ずしも改善しなかったが、血清クレアチニン濃度の上昇は抑制されていた。この有効性の機序として、ワクチン細胞であるdna51に対する抑制抗体が血清中に認められた。この抑制抗体は、dna51のTCRβ-CDR3の部分を認識することが証明されている。またdna51に対して細胞障害性を有するCD8陽性細胞が確認された。さらに興味深いことは、B細胞数も減少しており、i-dna51を移入したMRL/1prマウスではB細胞のdna51に対する抗原提示機能が明らかに低下していた。抗DNA抗体はSLE、特にループス腎炎における疾患標識抗核抗体であるが、TCVは抗DNA抗体を目印として、それに関与する自己反応性T細胞、B細胞さらには抗DNA抗体産生の抑制を包括的に制御できる新たな治療法として期待できる。現在のSLEの治療は非特異的な免疫抑制療法であり、副作用も多い。このようなより特異的な細胞抑制療法がヒトSLEの治療に応用できるよう、現在ハイブリドーマの作成に力を入れている。
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