研究課題
基盤研究(C)
我々はこれまで、分子シャペロン14-3-3蛋白質がエイズ脳症患者の脳脊髄液中にアイソマー特異的に検出されてくる事から、エイズ脳症の脳内病変の進行状況を的確に把握できるマーカーとして提唱してきた。一方、HIV感染による中枢神経障害は、ウイルス自身か、ウイルスに感染したマクロファージ等の炎症性細胞が、血液脳関門(BBB)を介して脳内に侵入し、これによって引き起こされる神経細胞死がその主な原因と考えられているが、その詳細なメカニズムは分かっていない。今回我々は、エイズ脳症発症に重要なこの2つのプロセスでの14-3-3蛋白質の役割解析を行う事でそのメカニズムの一部を明らかにした。1)HIV-1膜糖蛋白gp120による神経細胞死の14-3-3蛋白質による制御機構の解明14-3-3蛋白質は、哺乳類ではこれまで7つのアイソマーが存在する事が知られているが、この内14-3-3τがエイズ脳症患者脳内で特異的に発現誘導される事を見出した。エイズ脳症の神経細胞死では、膜蛋白質gp120が有力な誘導物質と考えられているので、培養細胞を用いたin vitroモデルでgp120による細胞死での14-3-3τの役割を解析した。その結果、14-3-3τは、細胞死実行因子Badのgp120による脱リン酸化を防ぐ事で、Badのミトコンドリア移行を抑制しgp120による細胞死を抑制的に制御している事が明らかとなった。2)HIV-1膜糖蛋白gp120による脳血管内皮細胞のタイトジャンクション(TJ)構築障害における14-3-3蛋白質の役割解析BBBは主に脳血管内皮細胞と神経膠細胞から成るが、その中でも血管内皮細胞間で形成されるTJは、BBBバリアー機能に極めて重要となる。最近、HIV-1のgp120やTatが、直接このTJを障害しBBBの破綻を引き起こす事が報告されているが、その詳細は分かっていない。その新しいメカニズムとして、今回我々は、gp120がZO-1,ZO-2等のTJ構成分子のプロテアソームによる分解消失を誘導し、このプロセスが14-3-3τによって抑制的に制御されている事を明らかにした。これにより、細胞接着構造にひずみをきたしBBB破綻に繋がる事が想定された。今回我々の解析により得られた知見は、エイズ脳症発症の機序解明に重要な手掛かりを与えるものと考えられた。
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AIDS 21(印刷中)
AIDS 21(in press)
The Ubiquitin Proteasome System In Central Nervous System : From Physiology To Pathology (Nova Bioscience)(Edited MD Napoli, JN Keller, C Wojcik) (in press)
Molecular Biology of the Cell 17
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