代表的な自己免疫疾患である、全身性エリテマトーデス(SLE)の病因はいまだに不明ではあるが、ある種の内在性自己抗原の転写亢進状態とそれに対する過剰反応性性が自己抗体産生など自己免疫現象発症に重要な役割を果たしている可能性がある。 こうしたことを背景として我々は、内因性自己抗体のひとつとしてヒト内在性レトロウイルス抗原(HERV)に注目し、SLE患者では、HERVの転写亢進状態にあることを報告した。 本研究では、この転写亢進を規定している因子を探索し、こうした視点からSLEの新たな治療戦略の可能性を探求している。現在までの研究結果から、SLE患者でのHERVの転写亢進は、DNAのメチル化を促す酵素であるDNMT1の量的低下が関係しており、ヒストンのアセチル化などの関与は少ないものと考えられる。 このようなエピジェネティカルな統御系には、性ホルモン、特にエストロゲンの影響が示唆され、これがSLEなどの自己免疫疾患の女性に多い発症率に関連している可能性がある。この点をより明確にする目的で、現在マイクロアレイ法を用いて、女性の性周期におけるDNMT1などの転写規定因子をはじめとした各種遺伝子の発現状況を検索中である。この結果は、内因性自己抗原の転写とそれを規定する転写規定因子に及ぼす性ホルモンの影響を明らかに、自己免疫疾患の発症性差の原因に迫る有力な手がかりを提供するものと考えられる。
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