研究概要 |
全身性エリテマトーデス(SLE)の病因はいまだに不明ではあるが、ある種の内在性自己抗原の転写亢進状態とそれに対する過剰反応性が自己抗体産生など自己免疫現象発症に重要な役割を果たしていると考えられる。我々は、内在性自己抗原のひとつとしてヒト内在性レトロウイルス抗原(HERV)に注目し、SLE患者では、HERVの転写亢進状態にあることを明らかにした。このSLE患者での転写亢進には、DRAのメチル化を促す酵素であるDMT1の量的低下が関係していることを突き止めた。 このようなエピジェネティカルな統御系には、性ホルモン、特にエストロゲンの影響が示唆され、これがSLEなどの自己免疫疾患の女性に多い発症率や、妊娠や月経周期の影響を受けるその病態・病勢の発現に関連している可能性がある。 この点から、エストロゲンなどの女性ホルモンの免疫遺伝子転写発現に及ぼす影響を研究することにより、SLEの発症性差や免疫関連遺伝子の転写亢進状態の機序を解析することを試みた。このために、DNAマイクロアレイ法を用いて女性性周期に特異的な変動を示す免疫遺伝子群を探索し、さらにこれら遺伝子群の実際のSLE患者での発現動向を検討した。約25,000の遺伝子のうち1)女性の性ホルモン周期に特有な動態を示し、かつ2)男性では変動の認められない遺伝子を絞り込み、特にその機能面より、TNFRSF14やSIRPGなどの遺伝子の性差への関与が示唆された。また、一連の研究の過程で、健常者に比べSLE患者末梢リンパ球ではエストロゲンレセプター(α)発現の著明な上昇が認められることが明らかとなった。このことも、女性に優位なSLEの発症に関連している可能性がある。 こうした研究結果は、自己抗原遺伝子の転写亢進の規定因子やそれに及ぼす性ホルモンの影響を明らかにするとともに、SLEなど自己免疫疾患の発症性差の原因に迫る有力な手がかりの提供や新たな治療戦略開発に貢献するものと考えられる。
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