アンジェルマン症候群(AS)を対象として体系的遺伝学的診断法の開発を行なった。DNAメチル化テスト、多型解析、UBE3A変異解析、リアルタイムPCRを用いた微細欠失解析の組み合わせで、すべての遺伝学的群の診断が可能となり、体系的遺伝学的解析法を確立することができた。この体系的遺伝学的診断法を用いてAS非欠失例85例の解析を行うことができた。内訳は、片親性ダイソミー(UPD)7例、刷り込み変異7例、UBE3A遺伝子変異23例であり、44例には異常が検出できなかった。メチル化テスト陽性例のなかで、4名は両親の検体が入手できず、UPDと刷り込み変異との区別ができなかった。従って、非欠失例の67%の原因を同定することができた。UBE3A変異はエクソン8からエクソン16に広く分布した。そのなかで、エクソン16の3089-3095領域に5家系の変異が集中し、変異の好発部位であった。弧発例で母親の解析が8例に可能であった。そのなかで、2例の母が保因者であり、6例はde novoの変異であった。UBE3A変異同胞例の1家系においては、母親の生殖腺モザイクが発見され、母親の末梢血を用いた検査が正常であっても、再発危険率が高い可能性の存在が示された。これらの結果は日本人におけるASの遺伝学的分類の基礎データを提供し、遺伝カウンセリングを行うための重要な資料となる。 このように、体系的遺伝学的診断法を行なうことにより、ASの確定診断を得ることができるだけでなく、遺伝カウンセリングの観点からも重要であることを明らかにすることができた。ASにおける解析法は遺伝性精神遅滞の診断モデルとして重要であるのみならず、エピジェネティクス解析と遺伝学的解析とを組み合わせる、複雑な遺伝背景を有する疾患の解析モデルを提供する点で独創的な役割を示すことができた。
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