研究概要 |
高グリシン血症に代表される血中ないしは髄液中グリシン濃度の上昇をきたす120家系のDNA収集と遺伝子変異解析を行ってきた。解析した120症例のうち高グリシン血症の既知責任遺伝子である、GLDC,AMT,GCSHで説明できるのは、全体の約60-70%のみである。本研究の目的は、これらの病因遺伝子が特定できない症例の体系的な候補遺伝子解析を行い、責任遺伝子変異を明らかにし、その機能解析を通じて病態を解明する事にある。現在までに全てのDNA検体のGLDC,AMT遺伝子変異を全エクソンの塩基配列を決定する方法で終了しており、60%の症例でGLDCないしはAMT遺伝子の変異を認めた。従って、今回の検索対象となるのは、約50症例である。脳内グリシン濃度の影響を与えると考えられる遺伝子は、GLDC,AMT,GCSH,DLD,LPT,GLYT1,GLYT2の7つある。GLDC,AMT,DLD,LPは代謝酵素であり、GLYT1とGLYT2はグリシン特異的トランスポーターである。特異的トランスポーターの他に、非特異的トランスポーター(中性アミノ酸トランスポーター)がいくつか知られており、これらのグリシン濃度に影響している可能性がある。グリシン濃度に影響すると考えられる他の遺伝子が同定された場合には、これに追加していく。現在までに候補遺伝子に対して、順次、遺伝子変異の検索を進め、いくつかの候補となる塩基置換を見出した。現在次の三つの基準を使い、その病因性を検討している。次の検討を行い多型と遺伝子変異とを区別する。(1)その両親のDNAが収集されている症例が多いので、両親のDNAで遺伝子変異の確認を行い、父方アレルと母方アレルの変異を同定する。(2)変化したアミノ酸配列が、動物種を超えて保存されているかどうかを検討する。(3)100名の正常対照者のDNAに同じ遺伝子変異が認められるかどうかを検討する。以上の検討で、遺伝子変異の可能性が高い塩基置換に対し、機能解析を行う予定である。
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