研究概要 |
ヌーナン症候群は小児先天奇形症候群で、顔貌異常、翼状頸、低身長、心奇形、精神遅滞等を伴う症候群でありチロシンホスファターゼSHP-2をコードするPTPN11遺伝子が原因遺伝子として同定されている。しかしヌーナン症候群の約60%にSHP-2遺伝子変異はみつかっておらず、その原因は依然不明である。この研究の目的はいまだ原因不明のヌーナン症候群とその類縁疾患の原因を解明することである。 1.SHP-2遺伝子変異のないヌーナン症候群家系の家族13人のゲノムDNAに対しリンケージ解析を行ったところSHP-2遺伝子の存在する12q24.1に連鎖を認めなかった。 2.SHP-2遺伝子変異陰性のヌーナン症候群の原因がシグナル伝達系でSHP-2の上流、あるいは下流にある分子であるという仮説をたて候補遺伝子検索を行った。増殖因子等のシグナル伝達においてSHP-2がRAS/MAPキナーゼ系を活性化することに注目し、ヌーナン症候群28人とコステロ症候群13人のゲノムDNAに対して癌遺伝子HRAS,KRAS,NRAS,ERASのシークエンスを行った。その結果コステロ症候群13人中12人にHRASの生殖細胞系列での遺伝子変異が同定された。患者由来の線維芽細胞で正常に比べ増殖が亢進していることとコステロ症候群のがん組織のmRNAでは変異アレルのみが発現していることを見出した。RASは癌遺伝子であり、これまで癌組織の約30%に体細胞変異が同定されてきた。コステロ症候群で同定された変異はこれまで癌組織で同定されたものと同一の変異でありSHP-2同様RAS/MAPキナーゼ系を活性化する(Aoki Y et al. Nature Genetics,2005)。さらにヌーナン症候群に類似するcardio-facio-cutaneous(CFC)症候群43人を解析し癌遺伝子KRASとBRAFの遺伝子変異を同定した(Niihori T et al. Nature Genetics,2006)。本研究によりHRAS,KRAS,BRAFがヒト発生に重要な役割を果たし、コステロ症候群とCFC症候群という類縁疾患の原因が共通のシグナル伝達系の活性化によるものであることが明らかになった。
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