研究概要 |
小児期発症の拡張型心筋症と心筋緻密化障害は予後不良であり、心移植の対象となる疾患であるが、我が国においては、その頻度、臨床像や遺伝学的な側面に関する系統だった検討はなされていない。我々は、本邦で初めて心筋緻密化障害の症例を報告し、さらに全国調査を行い、その臨床的特徴を報告した[Ichida, Am J Coll Cardiol 1999]。また、Barth症候群に見られるX染色体上の遺伝子異常(Xq28,G4.5)が乳児期発症心筋症にも認められ、Barth症候群の特徴を有しない場合も、乳児期発症の心筋症では、G4.5遺伝子異常を念頭に置く必要があることを強調した[Ichida, Circulation 2001]。本邦でも、Barth症候群の特徴を有しない孤立性心筋緻密化障害の1家系で、本邦では初めてG4.5遺伝子異常を報告した[Chen, Mol Genet Metab, 2002]。今回の研究の目的は、これまでの研究をさらに発展させ、1)大規模な全国調査を行い、小児期発症の拡張型心筋症と心筋緻密化障害の頻度、遺伝的背景や臨床像を把握し、特にBarth症候群の特徴の有無に関しても検討を行った。2)承諾が得られた症例では、これまで検討を行ってきたG4.5遺伝子の他、細胞骨格蛋白関連遺伝子に着目し、dystrophin, sarcoglycan, DTNALDB3の遺伝子異常に関しスクリーニングを行い、これらの遺伝子の関与を明らかにすることである。 その結果、遺伝子異常は、79例中6例(4家系例、2弧発例)に認められ、G4.5遺伝子異常2例、LDB3遺伝子異常3例、DTNA遺伝子異常1例であった[Xing, Mol Genet Metab, 2006]。孤立性心筋緻密化障害の2家系4症例においては、わが国ではじめて、LDB3の遺伝子異常(1876G>A)を発見し、アミノ酸の変化(D626N)を確認した。この遺伝子変異は、LIM domainの機能を変化させ、protein kinase Cの親和性が亢進することが報告されている。他の弧発例では、LDB3の遺伝子変異(163G>A)がhomozygoteで認められ、アミノ酸の変化(V551I)が確認された。20例の家族歴を有する症例の検討では、優性遺伝形式をとる家系が多く、X連鎖性遺伝形式は5家系のみであった。心筋緻密化障害には遺伝的多様性があり、また同一家系内での臨床所見にも多様性があることが明らかになった。
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