研究概要 |
糖尿病における血管合併症は大血管病変から微小血管病変まで多彩である。糖尿病血管合併症の成因については、近年、活性酸素・活性窒素といった生理活性分子による組織構成蛋白、脂質、核酸の非酵素的・不可逆的修飾、あるいは特異的受容体を介した各種酵素・生理活性分子の異常誘導が注目されている。このような酸化ストレス・ニトロ化ストレスに関連した病態・疾患に対する方略としては、一旦完成された病変を治療することよりもその発症や重症化を抑止することに重点が置かれつつある。平成17年度の研究成果は以下の通りである。 臨床医学:酸化ストレス・ニトロ化ストレスが生体機能を修飾・傷害し、疾病形成に関与することをin vivoで解析するためには、生体内の構成物が酸化・ニトロ化された結果生じる安定生成物を計測する方法がよく用いられる。本研究者は、脂質・蛋白質酸化物のacrolein-lysine、糖質・蛋白質酸化物のpentosidine、核酸酸化物の,8-OHdGを生体マーカーとして、小児糖尿病患者が被る酸化ストレス・ニトロ化ストレスを生化学的に数値化できることを明らかにした。今後、このデータをもとに個々の患者の容態に応じて行われる治療の効果について非侵襲的に評価できる道が開かれた。 基礎医学:酸化ストレス・ニトロ化ストレスが微小血管内皮細胞に及ばす炎症性応答を追究した。すなわち、炎症性サイトカインによる微小血管内皮細胞の接着分子、サイトカイン・ケモカインの異常誘導におけるストレス依存性カスケードを明らかにし、あわせて、抗酸化剤の炎症抑制効果を示した。今後、酸化ストレス・ニトロ化ストレス依存性の細胞応答を修飾することによって糖尿病性血管障害を抑止する治療戦略が開発される道が開かれた。
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