糖尿病の血管合併症の成因としては、高血糖そのものというよりは、それにより過剰に産生された活性酸素・活性窒素といった生理活性分子による組織構成蛋白・脂質・核酸の修飾やそれらによる各種酵素・生理活性分子の異常誘導が重要と考えられるようになった。このような酸化ストレス・ニトロ化ストレスの異常亢進を適切に制御する方略が、今後の糖尿病治療のmainstreamのひとつになると想定されることから、本申請者はその方面の研究を推進した。平成17〜18年度の研究実績は以下の通りである。 臨床医学:酸化ストレス・ニトロ化ストレスが生体機能を修飾・傷害し、疾病形成に関与することをin vivoで解析するためには、生体内の構成物が酸化・ニトロ化された結果生じる安定生成物を計測する方法が一般に推奨される。しかしながら、健常児の参考正常値のみならず、病的児の正常値からの変移度や病態生理との関連性については、ほとんど全くデータがないのが実情である。本申請者は、8-OHdG、acrolein-lysine、nitrite/nitrate、pentosidine、L-FABPなどの尿中マーカーの健常児における年齢・性別の正常値を明らかにし、続いて、これらのマーカーを用いて、酸化ストレス・ニトロ化ストレスの増減が糖尿病、アトピー性皮膚炎などの小児炎症性疾患の病勢や治療による反応と平行することを示した。 基礎医学:酸化ストレス・ニトロ化ストレスが微小血管内皮細胞に及ぼす炎症性応答を追究した。すなわち、炎症性サイトカインによる内皮細胞の接着分子、サイトカイン・ケモカインの異常誘導におけるストレス依存性カスケードを明らかにし、あわせて、抗酸化剤の炎症抑止効果とその分子機構を示した。 酸化ストレス・ニトロ化ストレス依存性の異常な細胞応答を抑止することにより、糖尿病における血管合併症を予防・治療できる方策を開発するための基盤になるデータを揃えることができた。
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