研究概要 |
神経芽腫は小児の代表的な固形腫瘍であり、重要な小児慢性特定疾患である。我々は神経芽腫細胞においてp53依存性の細胞死誘導を阻害するinhibitor分子の候補を検索してきた。ドキソルビシン耐性神経芽腫株で高発現し、p53に結合している核局在蛋白がそのinhibitorの候補として考えられた。このinhibitor候補蛋白はp53のE3 ligaseとして働くHDM2であった。 HDM2はp53の蛋白分解を促進すると考えられているが、興味深いことにドキソルビシン耐性神経芽腫株ではHDM2の発現はドキソルビシン感受性神経芽腫株より高値であったが、p53の蛋白量もドキソルビシン耐性神経芽腫株において高値であった。 この核局在蛋白HDM2のイントロン部分の遺伝子変異SNP309変異がHDM2の発現量を増加させ、かつp53の分解を増加させずにp53の転写活性化能を抑制する報告がある()。このSNP309変異の検索をRT-PCR/Direct sequencing法を用いて、神経芽腫細胞株SK-N-SH, NB-9(感受性株)、IMR32, NB-19(耐性株)で行った。感受性株SK-N-SHのみで片側にSNP309変異が同定された。また、HDM2のp53との結合部分の変異を想定してこの部分のsequenceを行ったが、やはり変異は同定されなかった。手術検体でReal-time PCR法による発現量確認および予後成績との比較を行って、本遺伝子の神経芽腫患者における臨床的な重要性を検討していきたい。 また我々は神経芽腫細胞におけるp53経路のエフェクターを検索するプロジェクトに従前から着手していたが、このエフェクターがp53によって転写が促進されるミトコンドリアのpro-apoptotic family分子であるNoxaであることを明らかにした。P53依存性細胞障害刺激であるドキソルビシンを神経芽腫細胞に投与すると、感受性株ではミトコンドリアのNoxaの蛋白量が促進し、ミトコンドリア機能障害から細胞死が誘導される。耐性株ではNoxaが刺激前からミトコンドリアに集積していたが、さらなる蛋白量の促進はなく、結果としてミトコンドリア機能障害が起こらないと推測された(Kurata K et al, Oncogene, revise)。この神経芽腫細胞におけるNoxaのkineticsに関して、HDM2が関与していることを示唆するデータを、神経芽細胞取株におけるHDM2定常発現株作成から我々は得ている。HDM2定常高発現株では、p53の蛋白量が減少せず、p53の下流経路の活性化が障害されており、さらにNoxaのミトコンドリア内の集積・不活性化が起きていた。これらのデータはHDM2がp53経路の不活化・NoxaのKineticsに作用することを強く示唆する。今後はこのHDM2によるp53経路不活性化、Noxaのkinetics調節機構に関する研究をさらに展開して、難治性神経芽腫に対する新たな治療法開発を図りたい。
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