研究概要 |
重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency:以下SCIDと略す)は,T細胞が欠損し細胞性と液性免疫能が著しく障害され、造血幹細胞移植などの根治治療がなされなければ乳児期に重症感染症によって死亡する。SCIDの約半数は末梢血B細胞を認め、サイトカイン受容体を構成するcommon gamma鎖の異常である。本邦におけるArtemis変異重症複合免疫不全症5例の診断と造血幹細胞移植成績について解析し、さらに、Artemisの機能を検討した。SCIDにおけるArtemis患者の頻度は、ヨーロッパにおいては約7%といわれているが、本邦においても10%弱と同様の発症頻度と考えられた。Artemis変異は一般にExon skipが多く、Exon3欠損2例、Exon3欠損/2塩基挿入、Exon3欠損/不明1例、そして新たにExon1,2欠損1例を見出した。Exon 3欠損は,ゲノムLong-PCRによって確定診断したが、Exon1-2欠損例では、Western blotの併用によって確定できた。造血肝細胞移植前処置は、前処置なし1例、エンドキサンを主体とした従来の方法3例、1例はフルダラビン主体のミニ移植を行った。2例は、サイトメガロウイルス感染と肺障害で死亡、3例は順調に経過しているものの、1例でドナーT細胞の肺浸潤がみられる。体細胞にArtemis変異があるものの悪性腫瘍などの合併症はみられていない。Artemis機能に関しては、VDJ再構成とDNA修復における関与は確定的である。ニワトリDT40 Artemisノックアウト株を用いた解析でも、放射線感受性を認め、Artemis変異体は放射線に対して弱いものと考えられる。しかしながら、シスプラチンに対する感受性は認めず、こうした薬剤に対しては問題がない可能性が指摘された。本解析によって、本疾患の診断ならびに予後が明らかになるとともに、実験的に強い放射線感受性がみられるため、こうした点を注意深く観察していく必要性を指摘できた。
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