(目的)小頭症の発生過程には、多様な神経細胞移動障害の過程が推測される。本研究では、DNA合成阻害剤であるAra-C (cytosine arabinoside)を妊娠マウスに接種して小頭症モデルを作成し、本症にともなう神経細胞移動障害の過程を免疫組織学的に検索した。(方法)ICR-JCL系マウスの妊娠13.5および14.5日目にAra-Cを30mg/kg腹腔内に接種した群を実験群、同様の方法で生食水を接種した群を対照群とした。これらの胎仔および出生マウスの摘出脳について病理組織学的検索を行うとともに、一部の検体には妊娠15.5日目にBrdU (5-bromodeoxyuridine)を腹腔内接種してBrdU陽性細胞の脳内分布を観察した。(結果)胎生15.5日目の対照群では、nestin陽性の放射状グリア線維が脳室帯から脳表まで密に分布し、BrdU陽性の神経上皮細胞は脳室帯の外層に主として集積していた。subplateには内包からcalretinin陽性線維が明瞭に観察された。実験群では、放射状グリア線維は帯状回の皮質では一部において欠如し、脳室帯の神経上皮細胞にもBrdUを欠如する領域が観察された。内包からsubplateにかけてcalretinin陽性線維の伸長は不良で、帯状回および前頭葉のsubplateには陽性線維は認められなかった。TUNEL陽性細胞は大脳半球に広範囲に分布し、特に脳室帯および中間層に多数分布していた。生後0日目には、両側の帯状回から前頭葉の皮質下に小卵円形の異所性灰白質を認め、13日目にはさらに、側脳室の上側方部にも異所性灰白質を認めた。(結語)Ara-Cは脳室帯および中間層の幼弱な神経細胞に強いアポトーシスを惹起することが明らかとなった。これに引き続く放射状および接線方向の神経細胞移動障害が、小頭症および異所性灰白質の成因のひとつと推測された。
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