心臓流出路は、胎生期の動脈幹から形成される。最近、前方心臓領域(anterior heart field : AHF)とよばれる咽頭弓中胚葉領域に由来し、動脈幹の発生に関与する新たな細胞群が発見された。本研究の目的は、AHF由来細胞の心臓流出路形成における役割と分子機構を解明することである。本研究では、AHFに発現する転写因子Tbx1の発現がそれぞれ正常の60%、50%、20%、0%に低下した胚を得ることができる遺伝子改変マウスを利用した。初期の解析では、Tbx1の発現量低下とマウスの表現型の相関が示唆された。詳細な検討により、Tbx1の発現が50%まで低下すると先天性心疾患の一つである、大動脈弓離断症を含む大動脈弓の異常が、約30%の胚に認められ、Tbx1の発現が20%まで低下すると、総動脈幹遺残症を含む心臓流出路の異常が、ほぼ100%の胚に認められるが、同時にヒト先天性心疾患に認められるような、個体間での細かな重症度の違い、表現型の差異が再現されることがわかった。遺伝子改変マウスの心臓流出路の発生の経時的な解析では、Tbx1が発現するAHF由来の細胞の数が減少し、流出路の短縮および流出路の回旋の異常が起こることが、先天性心臓流出路異常の発症の原因となることが推定された。個体間の細かな表現型の差異は、Tbx1の発現に影響を与える他の遺伝的ないし環境的因子、または胎内での血行動態に起因すると推測された。分子マーカーの検討では、幅広くAHFに発現する転写因子Isl1およびその調節を受けるMef2c、Nkx2.5などの転写因子と、Tbx1は独立して機能していることが示唆された。さらに解析を進めることにより、Fallot四徴症、両大血管右室起始症、総動脈幹遺残症など、一連の先天性心臓流出路異常スペクトラムの発症分子機構の解明につながると考えられる。
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