私達は過去にヒト多嚢胞性異形成腎、ヒツジ胎仔尿路閉塞腎の嚢胞においてMAPキナーゼファミリーのp38 MAPキナーゼ(p38)、extracellular-signal regulated kinase (ERK)の発現・活性が増加していることを報告した。また異形成腎には尿路閉塞が高率に合併する。そこで今回、尿路閉塞の流体力学的変化を尿管芽細胞周期的伸展によりin vitroで再現し、p38、ERK活性および嚢胞上皮に特徴的な細胞増殖、Pax2、TGF-β1発現、アポトーシスへの影響を検討した。p38、ERKは周期的伸展により時間依存性に活性化された。Pax2蛋白発現も時間依存性に増加したが、p38阻害剤SB203580、ERKの上流酵素MEKの阻害剤PD98059存在下では対照と同レベルに抑制された。TGF-β1蛋白は24時間周期的伸展で増加し、ERK阻害、p38阻害により減少した。BrdU取込みにより評価した細胞増殖は24時間伸展で有意に増加したが、p38阻害、ERK阻害により抑制された。アポトーシスは24時間伸展では変化を認めず、48時間伸展で増加し、p38阻害、ERK阻害、抗TGF-β抗体により抑制された。またTGF-β1投与によりアポトーシスが生じたがSB203580、PD98059により抑制された。以上、尿管芽細胞において周期的伸展によりp38、ERK活性化、Pax2、TGF-β1発現、細胞増殖に続きアポトーシスが誘導された。p38、ERKがPax2、TGF-β1発現、細胞増殖、アポトーシスを介して胎児期尿路閉塞による異形成腎発症に関与する可能性が考えられる。
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