1)胎生60日で尿路閉塞術を行ったヒツジから術後2、3、5、7、20-32日(E62、E63、E65、E67、E80-92)および満期(145日、N1)に摘出した腎のパラフィン切片を用い、嚢胞形成、MAPキナーゼ発現、線維化を検討した。E62でBowman嚢および近位尿細管の拡張が認められ、E80で皮質全体に、N1で腎全体に嚢胞が認められた。増殖のマーカーPCNA、線維化のマーカーTGF-βはE62から発現が認められ、嚢胞、尿細管、間質において経時的に増加した。正常腎ではp38は胎生期にしか認められず、活性型ERK、P-ERKはどの発生段階にも検出されなかった。またJNKは胎生期には発現せずN1で染色された。閉塞腎の嚢胞は常にp38、P-ERK陽性、JNK陰性であった。またP-ERK発現は空間的・時間的にPCNA、TGF-Bと相関を示した。以上の結果から、胎生期尿路閉塞腎では胎生期MAPキナーゼ発現パターンが持続してみられ、嚢胞形成、線維化に関与する可能性が考えられた。 2)私達が過去に報告したヒト異形成腎および今回のヒツジ胎生期尿路閉塞腎嚢胞形成にMAPキナーゼが関与する可能性があることから、ERK阻害により嚢胞形成が抑制されるか否かを検討した。ヒト、ヒツジにおける試験は困難であるため、胎生期尿路閉塞腎、異形成腎嚢胞と類似する嚢胞形成を特徴とする疾患、多発性嚢胞腎のモデルpcyマウスにERKの上流酵素MEK阻害剤PD184352を7週間投与した。非投与対照群に比し、投与群では腎腫大、嚢胞形成が抑制され、血圧、血清クレアチニン値は有意に低値、尿浸透圧は高値であった。pcyマウス嚢胞上皮ではERK、p38活性化・発現増加およびJNK発現低下がみられ、PD184352によりERKのみ正常化した。これらの結果によりERKの嚢胞形成への関与が証明された。
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