研究概要 |
低セルロプラスミン血症および健常者由来の血清から分離したセルロプラスミン複合物を用い,二次元電気泳動を行った。低セルロプラスミン血症で確認されたナンセンス変異による低分子のペプチドがゲルイメージ上の相違として確認できることを予測したが,両者の比較の結果,違いは認めなかった。またセルロプラスミンの低値を認めるがセルロプラスミンの遺伝子異常ではないウィルソン病患者の検体でも同様の比較を行ったが同じく,健常者のゲルイメージとの相違は認めなかった。次に,各々の血清を二次元電気泳動後のゲルから該当するバンドを抽出しMALDI-TOF-MS解析をおこなったが,それぞれの疾患に特異的な質量を示す分画は認めなかった。少なくとも低セルロプラスミン血症では遺伝子レベルでナンセンス変異を同定されているにもかかわらず,MALDI-TOF-MS解析でのペプチド構造解析では異常が認められなかった。これは,純品のペプチドピークの検出率が19%にとどまったことから変異部位がペプチドピークとして検出されなかった故と考えられた。また,遺伝子レベルでの変異を確認できていないもう一方のアレルでの変異を蛋白レベルで同定することもできなかった。ウィルソン病では,糖鎖付加の変化などの翻訳後修飾によるゲルイメージおよびペプチドピークの変化を予測したが実際には変化を認めなかった。この原因として,ウィルソン病では翻訳後修飾を受けていないまたはペプチドピークの検出範囲には変化が存在しなかった可能性を考える。 ヒト由来のセルロプラスミン純品試薬のペプチドピークの検出率が19%であることから,変異部位または異なる修飾を受ける部位がこの範囲にない場合には,MALDI-TOF-MSでは変異蛋白または異常蛋白と正常蛋白との差が有意に検出するには限界があると考えられた。
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