研究概要 |
近年のがん治療法の進展にもかかわらず、進行神経芽腫は依然として予後が悪く、また、現在臨床で用いられている神経芽腫の予後マーカーでは予後予測が困難な中間予後群が存在する。このような症例についての早期判別と適切な治療戦略設定を実現するため、本研究では多検体の神経芽腫を用いたゲノム異常の詳細な解析と、網羅的遺伝子発現データとの統合を行い、癌の発症・進展の原因となる関連遺伝子や、予後不良な神経芽腫の素因となる遺伝子の同定を目指す。 本年度は以下の成果が得られた。 1)遺伝子発現プロファイルデータの取得 当研究室で独自に作製した小児癌由来の11,000個の遺伝子のチップを用いて、予後不良群および中間予後群の腫瘍を中心に遺伝子発現解析を行った。また、同一腫瘍組織におけるゲノムコピー数異常のパターンと遺伝子発現パターンの比較を行うため、同チップに搭載された遺伝子について、UCSCのGenome Browserに対するデータベース検索によりチップ上の遺伝子の染色体マッピングを完了し、本研究で用いたUCSF-BACアレイ上の各クローンとの対応付けも行った。 2)アレイCGH法によるゲノム異常データと遺伝子発現データの統合的解析 昨年度までにアレイCGH解析により得られた神経芽腫268症例のゲノムコピー数異常のパターンの中から、特に欠失、増加の頻度の高い領域を絞り込み、1)で得られた遺伝子発現のパターンとの比較を行った。神経芽腫で高頻度に欠失が見られる11q領域については、最小重複欠失領域を10Mbに絞り込み、そこに位置する約100の遺伝子についての遺伝子発現パターンと比較することにより、予後不良タイプの神経芽腫で特異的に低発現が見られる候補遺伝子を抽出した。そのうちの一つについて、多検体の腫瘍組織を用いた定量的RT-PCR解析、メチル化の有無の検討を進めた。1p36領域の高頻度欠失領域についても同様の解析を進めた。今後は選択した候補遺伝子の詳細な機能解析を行うとともに、上記以外の染色体領域についても同様の解析を進めていく予定である。
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